東京高等裁判所 平成8年(行ケ)57号 判決 1998年11月12日
東京都千代田区神田東松下町45番地
参加人
ブリヂストンスポーツ株式会社
代表者代表取締役
中村嚴太郎
訴訟代理人弁理士
増田竹夫
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
伊佐山建志
指定代理人
石川伸一
同
吉村宅衛
同
廣田米男
同
馬場清
東京都中央区京橋1丁目10番1号
原告(脱退)
株式会社ブリヂストン
代表者代表取締役
海崎洋一郎
主文
参加人の請求を棄却する。
訴訟費用は参加人の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 参加人
特許庁が平成5年審判第5542号事件について平成7年8月14日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1985年(昭和60年)7月2日のアメリカ合衆国の出願に基づく優先権を主張して、昭和61年2月21日、発明の名称を「高速度瞬間多重画像記録装置」とする発明について特許出願(昭和61年特許願第36762号。以下「本願発明」という。)をしたところ、平成5年1月27日に拒絶査定を受けたので、同年3月25日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成5年審判第5542号事件として審理され、平成7年8月14日付で「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、平成7年10月23日にその謄本の送達を受けた。
2 独立当事者参加と訴訟脱退
(1) 参加人は、平成7年11月28日、原告から本願発明についての特許を受ける権利の譲渡を受け、同年12月4日、特許庁長官に対してその旨届け出た。そして、参加人は、本件訴訟に参加する旨申し立てた。
(2) 原告は、平成8年6月20日の第2回準備手続期日において、訴訟脱退の意思表示をし、被告は、これを承諾した。
3 本願発明の特許請求の範囲
本願明細書中の特許請求の範囲1の記載は、次のとおりである。(別紙図面(1)参照)
「動的対象物に向けてビデオカメラ、センサー及び発光部を設置し、
ビデオカメラにこのカメラの映像信号を受信しモニターに1コマ分の映像を送る外部信号により同期するフレームメモリーを接続し、
発光部にビデオカメラの1コマ会に対し複数回閃光するための発光出力を与えるストロボを接続し、
センサーにこのセンサーからの検出信号を受信するリターダ(6)を接続するとともに、リターダ(6)にこのリターダ(6)からの発光信号を受信する前記ストロボを接続し、
ストロボにこのストロボからの同期信号を受信し発光部の閃光にリターダ(6')を介して同期する前記フレームメモリーを接続し、
モニターにビデオカメラ1コマ内において発光部の複数の閃光でとらえられた複数の瞬間ポーズを同時に表示することを特徴とする高速度瞬間多重画像記録装置。」
4 審決の内容
別添審決書「理由」の写し記載のとおりである。なお、審決が引用する特公昭51-11893号公報、特開昭54-149419号公報を、審決と同様、それぞれ「引用例1」、「引用例2」といい、また、本願発明と引用例1との相違点A、Bについても、審決と同様、それぞれ相違点A、Bということにする。
5 審決を取り消すべき事由
審決中、Ⅰ[手続きの経緯、本願発明の認定]、Ⅱ[引用例]、Ⅲ[対比]のうち相違点A、Bは認め、その余は争う。
(1) 取消事由1(引用例1の「レンズと撮像蓄積管」が本願発明の「ビデオカメラ」に相当するかどうか)
本願発明にいう「ビデオカメラ」とは、日本、米国で採用されているNTSC方式(30フレーム/1秒)、主としてヨーロッパで採用されているPAL方式(25フレーム/1秒)といった通常市販されている汎用のビデオカメラを意味するのであって、1秒間に500フレーム以上を送ることができる高速ビデオカメラを含むものではない。このことは、本願明細書の発明の詳細な説明中に、「ビデオカメラとして1秒間に30コマ送る通常市販されているものを使用し、1コマ分作動させた場合、30分の1秒の間に発光部は10回閃光することととなる。すなわち、ビデオカメヲ1コマ内に10の瞬間ポーズが写し出され、リアルタイムでモニターに写し出される。」(5頁5行ないし10行)、「ビデオカメラ2は通常市販されている毎秒30コマのスピードの映像信号を送るものでよく、特殊な高速ビデオカメラは必要ではない。このビデオカメラ2の映像信号を受信しモニター10に1コマ分の映像を送る外部信号によりリターダ6’を介して同期するフレームメモリー5を接続してある。」(5頁16行ないし6頁2行)と記載されていることから明らかでである。
他方、引用例1に記載の「レンズと撮像蓄積管」は、1/30秒で1フレーム(1コマ)とするNTSC方式の汎用ビデオカメラではない。ちなみに、NTSC方式のテレビジョンカメラでもない。
したがって、引用例1の「レンズと撮像蓄積管」が本願発明の「ビデオカメラ」に相当するとの審決の認定は、誤っている。
(2) 取消事由2(本願発明の「1コマ」が引用例1に存在するかどうか)
本願発明における「1コマ」とは、昔の「8ミリカメラ」や「16ミリカメラ」でいうところの「1コマ」をデジタル技術の「1フレーム」に対応させて表現したものである。本願発明を優先権主張の基礎として米国に出願され、特許された米国特許第4、713、686号明細書(丙第11号証)では、「1コマ」を「1フレーム」と表現しているのであり、本願明細書全体を参酌すれば、「1コマ」が「1フレーム」であることは明らかである。そして、本願発明は、一定時間に規則的に数フレーム(30フレーム/秒でも、25フレーム/秒いずれでもよい)を撮影するビデオカメラを使用するものであり、本願発明の「1コマ」とは、このようなビデオカメラにおける1画像を意味するものである。
これに対して、引用例1に記載の撮影手段としての「レンズと撮像蓄積管と制御器」には「1コマ」という概念は存在しないのであり、制御器により「撮像蓄積管」を記録状態にしたり、非記録状態にしたりするものである。そして、この記録状態の時間は、任意に設定することができ、通常のビデオカメラのように1秒間に30コマ(NTSC方式)送るように動作するものではない。
被告は、本願発明における「1コマ」は、単に「1画像」であると認定し、引用桝1も、1画像即ち1コマの画像を得るt1~t2の期間は適宜設定できるものであると主張するが、被告がいう引用例1の「1コマ」とは、本願発明のような1フレームをいうのではなく、任意に設定されるt1~t2の時間で撮影された1画像をいうにすぎない。
したがって、引用例1の1フレームと本願発明の1コマは、撮影された1画像という点では共通しているが、引用例1が、任意に設定されるt1~t2の時間で撮影されたものであるのに対して、本願発明が、ビデオカメラで一定時間に規則的に数フレーム(30フレーム/秒でも、25フレーム/秒いずれでもよい)を撮影されるものである点で相違しているものである。審決は、本願発明にいう「1コマ」が引用例1にも存在していると認定しているが、誤っている。
(3) 取消事由3(引用例1の「被写体」が本願発明の「動的対象物」に相当するかどうか)
本願発明の「動的対象物」は、ビデオカメラの1コマ分で多数の静止画像を撮影するためのものであるから、通常のビデオカメラの1コマ分、すなわち、1/30秒あるいは1/25秒以内に必要な瞬間が存在するものが対象となっており、また、位置検出からストロボ発光までのタイミング調整を必要とするものである。本願発明においては、動的対象物として撮影開始時点を正確にしないと、必要とする複数の瞬間ポーズを記録し、表示することができないため、センサーやリターダを必要とするものである。
これに対して、引用例1の「運動する被写体」は、「周期的運動をする回転体」しか予定しておらず、センサーやリターダを必要としない。引用例1のように周期的運動をする回転体であれば、運動中の被写体のどの時点から撮影を開始しても複数の静止像を少なくとも1回転分記録すれば、像の移動方向を観察し得るものであり、このようなものにセンサーの必要性は全く生じないのである。
引用例1に開示された技術的思想において、「運動する被写体」としてゴルフスイングにおけるクラブとボールを想定したとき(これは回転体ではない)、引用例1における時刻t1を被写体のいかなる運動位置に設定するのかについての説明はない。要するに、引用例1には、センサーやリターダが存在しないで、クラブとボールという回転運動ではない運動をする被写体に対し、そのインパクトとその前後をどのようにして正確に撮像するかについての技術的思想は全く開示されていない。
したがって、引用例1の「被写体」が本願発明の「動的対象物」に相当するとの審決の認定は、誤っている。
(4) 取消事由4(相違点Bの構成について困難があるかどうか)
撮影時の動的対象物に対して複数回閃光する手段として「発光部に接続されたストロボ」をもちいること、一画像記憶手段として「フレームメモリ」を用いること、タイミングを調整する手段として「リターダ」を用いること、撮影された一画面表示手段として「モニター」を用いることがいずれも周知ないし公知の事実であることは認める。
本願発明は、審決が相違点Bとして掲げているように、「一画像記憶手段として「フレームメモリー」を用い、そのフレームメモリーは「ストロボからの同期信号を受信し発光部の閃光にリターダを介して同期」されて書き込まれ、「モニターに1コマ分の映像を送る外部信号により同期」して読み出されるように接続されたもの」であるのに対して、引用例1は、「フレーム」という概念が欠如しており、また、「レンズと撮像蓄積管」でt1~t2の時間で撮影されたものが蓄積電極に記憶されるものであり、「ビデオカメラ」でない「レンズと撮像蓄積管」を用いてストロボ多重露光撮影をするものであるから、このような引用例1記載の技術内容から「フレームメモリー」を採用するという発想が生じようがなく、このような発想を予想し得るものではない。
「フレームメモリー」、「リターダ」、「センサー」は、個々には周知慣用の技術であるが、これらの組合せは新規であり、かつ、引用例1と公知事項とから当然に組み合せられるものでもない。
したがって、相違点Bについての審決の判断は、誤っている。
(5) 取消事由5(相違点Aの構成について容易想到があるかどうか)
(イ) 引用例2における「所定のタイミング」とは、位置検出信号dが“0”となった直後の垂直ブランキング信号期間内にシャッタ動作が完了するように、シャッタ機構のシャッタ時間を調整することであり、シャッタ動作を行うタイミング(位置検出してからシャッタ動作を行うまでの所要時間)を調整するものではない。また、引用例2における位置検出回路は、テレビカメラの撮像領域内の移動物体が、特定の、すなわち、実施例では、撮像領域の中央領域に移動物体が存在する期間を検出するものであって、撮像領域外の移動物体を検出するものではなく、撮像領域内の移動物体の検出を任意に設定できるものでもない。したがって、移動物体が撮像領域に達したことを検知する「センサー」を備えておき、その検知信号を受けて所望のタイミングで撮影せんとする技術的思想は引用例2に示されているように公知であるとした審決の判断は、誤りである。
(ロ) 引用例2の位置検出回路を引用例1の装置に適用しても、位置検出から撮像及びストロボ放電管の点灯開始までのタイミングを調整する機能はないから、撮像蓄積管の記録状態は、ゴルフクラブのスイング中撮像視野内にゴルフクラブが存在する間であり、撮像視野内にゴルフクラブが入ってきてから検出し、撮影したのでは、5万分の1秒というインパクトの瞬間を正確にとらえることはできない。
また、本願発明においてセンサーやリターダを必要とするのは、撮影しようとする対象がゴルフスイングやテニススイングであるため、位置検出後の撮影開始に到るまでのタイミングをとる必要があるからであり、しかも、ビデオカメラの1コマ内で移動物体の多数の静止画像を撮影せんがためであり、そのためのセンサーとリターダとストロボの組合せであって、個々のセンサー、リターダ、ストロボ自体は公知であっても、組合せたものは、引用例1、2に記載のものを寄せ集めて構成できるものではない。
更に、引用例1の「運動する被写体」は、前記のとおり、「周期的運動をする回転体」しか予定しておらず、センサーやリターダを必要としない。このようにセンサーやリターダを必要としない技術的思想に対して、引用例2の公知技術でセンサーを使用しているからといって、このセンサーを、センサーを必要としない技術的思想に付加するという考えは、当業者であれば初めから思いつきもしないものである。仮に適用したとしても、センサーである「位置検出回路」では、位置を検出してから撮影開始までのタイミングを調整できるようにはならない。
したがって、本願発明は、引用例1、2記載の発明から当業者が容易に予測することができる程度のものとした審決の判断は、誤っている。
第3 請求の原因に対する被告の認否及び主張
1 請求の原因1ないし4は認め、同5(1)ないし(5)は争う。審決の認定判断は正当であり、審決に参加人主張の違法はない。
2 取消事由についての被告の反論
(1) 取消事由1について
本願発明の特許請求の範囲には、ビデオカメラが30フレーム/1秒あるいは25フレーム/1秒であるとの記載はなく、また、ビデオカメラ即30フレーム/1秒あるいは25フレーム/1秒とは限らないのであるから、本願発明の「ビデオカメラ」を30フレーム/1秒あるいは25フレーム/1秒のものと限定して解釈すべき理由はない。
本願発明において、「ビデオカメラ」なる構成要素は、特許請求の範囲において、「動的対象物に向けて・・・設置し、」、「ビデオカメラにこのカメラの映像信号を受信しモニターに1コマ分の映像を送る・・・フレームメモリーを接続し、」と記載されているだけであるから、本願発明の「ビデオカメラ」は、動的対象物を撮像してその映像信号をフレームメモリに出力するものという技術的意義で捉えるべきである。そうすると、撮影のための光学系と撮影された光学像を電子ビデオ情報としてメモリーへ出力できる機能を有したものである引用例1の「レンズと撮像蓄積管」は、本願発明の「ビデオカメラ」に相当するのである。
(2) 取消事由2について
「ビデオカメラ」における「1コマ」なる用語が「1フレーム」なる意味と解釈する点に被告も何ら異論はない。被告も、その意味で「1画像」といっている。引用例1の第2図に示されるt1からt2間に5回のストロボ画像が重畳され蓄積された1画像も1フレームであり、本願発明の1コマと対応している。
参加人は、「1フレーム」は、汎用のビデオカメラにおける標準方式の1フレームと限定的に解釈すべきであると主張するが、前記のとおり、本願発明のビデオカメラが、汎用の標準方式の1フレーム、すなわち、1/30秒毎または1/25秒毎の画像を撮像するものに限るとしているわけではないから、「1フレーム」についても、汎用のビデオカメラにおける標準方式の1フレームと限定的に解釈すべきではない。
(3) 取消事由3について
参加人は、本願発明の「動的対象物」は、通常のビデオカメラの1コマ分、すなわち、30分の1秒あるいは25分の1秒以内に必要な瞬間が存在するものであり、また、位置検出からストロボ発光までのタイミング調整を必要とするものである旨主張するが、前者については、本願発明の特許請求の範囲に記載されておらず、かつ、必然性のない限定であることは前記のとおりである。後者については異論はない。
引用例1には、被写体として回転体のような周期的運動をする被写体の撮像が実施例として記載されているが、引用例1中には、速度の速い被写体の像のぼけをなくすためストロボ光を用い、発光と記録期間を同期させて効率の良い多重撮像信号を得る技術的思想炉示されており、また、この引用例1記載の発明の作用効果の記載を参酌すると、引用例1の被写体は回転体に限定されていない。
そもそも、「運動体」とは、移動体、回転体などを含む広い概念をもつものである。引用例1の第3図(別紙図面(2)参照)の動作例においては、被写体として回転体を想定し、その回転周期を測定する場合の動作が記載されている。しかしながら、この第3図に示された動作例は、引用例1の技術的思想を適用した1つの例にすぎないものであって、引用例1が運動する被写体として回転体のみを予定しているとするのは適切でない。引用例1に示される技術的思想は、被写体が回転体に限らず運動する被写体一般に適用できるものであって、引用例1に、「撮像蓄積管を用いて消去操作を介挿することなく、間歇的に記録を行うと共に各記録期間毎にストロボ放電管を点灯させて被写体を照明するものである。従って各記録期間の中間では・・・光電管の光量は極めて大きく、かつその点灯時間を1μS程度まで短縮し得るから、高速度の運動体のストロボ撮像を容易に行うことができる。また被写体の運動速度が極めて遅い場合においても、記録像が消去されないから、像の移動方向々確実に観察し得る等の種々の効果を有する。」(4欄35行ないし5欄3行)と記載されているように、引用例1の技術的思想は、高速度及び低速度の運動体を被写体とし、その瞬間多重画像を1画像として記録しモニターするものであるから、その一動作例として被写体が「回転体」の例が記載されていることをもって、「運動する被写体」は周期的運動をする回転体しか予定していないとするのは引用例1の解釈として妥当ではなく、引用例1記載の運動する被写体は運動する被写体一般に適用できるものであって、回転体以外の運動する被写体に適用することを制限ないし除外するものではない。
(4) 取消事由4について
一旦メモリに蓄積された一画像信号は、それが通常の1フレーム画像であれ、1静止画像であれ、ストロボ静止画像であれ、撮影終了後の適宜のタイミングで書き込まれた後、モニタでの表示のために1コマ分の映像が適宜のクロックで読み出されることは当然である。その際の書込みタイミングは、撮影終了後の適宜のタイミングであるから、撮影タイミングに相当するストロボからの同期信号を基に決められることは当然であり、上記のようにタイミング調整に遅延手段を用いることが周知慣用技術であるから、ストロボからの同期信号を受信し発光部の閃光にリターダを介し同期させて書き込ませることは、当業者が容易に想到し得ることである。また、モニターへの表示のためモニター装置の表示に対応する同期信号で読み出されることも当然であるから、その同期信号として外部信号を採用することも適宜の設計事項である。
本願発明のように移動する被写体がカメラの撮影領域に達した時にストロボ多重画像を撮影しその映像を表示させようとする場合の動作は、被写体である移動物体の検知、ストロボ発光、撮像記録、読み出してモニターに表示という一連のシーケンスで行われることは当業者には自明のことである。すなわち、被写体が来ていないのにストロボ発光させても意味はないし、多重画像が撮影記録される前に読み出し表示しても多重映像が見られないことは明らかである。そして、そのようなタイミング調整に遅延手段(本願発明のリターダ)を用いることは、周知慣用技術にすぎない。
(5) 取消事由5について
(イ) 引用例2には、「その目的は、移動物体をシャッタにより常に最適な撮像位置で静止化し、且つ画ぶれ等の画質劣化の少ない撮像信号を得ることである。」(2頁左下欄9行~11行)、「位置検出回路により移動物体が適正撮影位置に到達したことを検出し、検出した直後の垂直ブランキング期間内にシャッタ制御及び駆動回路によりシャッタを開閉させて撮像面に露光を行い、この露光直後の1フィールドの撮像信号を信号選択回路により選択して外部に出力するようにしたので、移動物体を常に最適な撮像位置で撮像し得ると共に画ぶれの少ない撮像信号が得られ」(4頁右下欄18行~5頁左上欄6行)と記載されており、この記載によると、このタイミングは、最適位置でのシャッタータイミングを意図していることは明らかであり、引用例2にいう「所定のタイミング」がシャッタ動作を行うタイミングをいうのではないとする参加人の主張は失当である。
(ロ) 引用例2には、検出直後の垂直ブランキング期間内にシャッタ制御をする技術が示されているところ、位後センサーの検出後何時のタイミングが動的対象物の最適位置となるかは、動的対象物の速さと、カメラとセンサーの位置関係とにより決められる設計事項である。そしてタイミング調整のためにリターダ(遅延手段)を用いることは電子技術として周知慣用技術であることを勘案すれば、相違点Aに対応する本願発明の構成は、引用例1のものに引用例2のこの技術を適用して容易に発明できたものというべきである。
参加人は、引用例2の位置検出回路を引用例1の装置に適用しても、位置検出から撮像及びストロボ放後管の点灯開始までのタイミングを調整する機能はないから、撮像蓄積管の記録状態は、ゴルフクラブのスイング中撮像視野内にゴルフクラブが存在する間であり、撮像視野内にゴルフクラブが入ってきてから検出し、撮影したのでは、5万分の1秒というインパクトの瞬間を正確にとらえることはできない旨主張するが、撮像視野内にゴルフクラブが入ってきて5万分の1秒というインパクトの瞬間を正確にとらえなければならないような場合には、当業者であれば、視野内位置にセンサーを配設して実施できないような設計はせず、当然、撮像視野より前の適宜の位置に設置するはずである。
参加人は、引用例1の「運動する被写体」は、前記のとおり、「周期的運動をする回転体」しか予定しておらず、センサーやリターダを必要としないのであり、このようにセンサーやリターダを必要としない技術的思想に対して、引用例2の公知技術でセンサーを使用しているからといって、このセンサーを、センサーを必要としない技術的思想に付加するという考えは、当業者であれば初めから思いつきもしないものである旨主張するが、引用例1の被写体が周期的運動をする回転体に限定されているものではないから、参加人の主張は失当である。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがない。
第2 丙第6号証(本願発明の特許願)及び丙第7号証(平成5年4月23日付手続補正書)によれば、本願明細書中の発明の詳細な説明の産業上の利用分野、従来の技術、解決しようとする問題点、問題点を解決するための手段、作用、効果の各欄には、次のとおりの記載があることが認められる。(別紙図面(1)参照)
1 産業上の利用分野
「この発明は、動的対象物、例えばゴルフのクラブをスイングしてそのインパクト付近のボールやクラブを1コマ内に多数写し、写った1コマを打った瞬間にモニターに静止画像として写し出したり、テニスラケットで打撃された直後のテニスボールの速度やスピンを解析するための高速度瞬間多重画像記録装置に関するものである。」(丙第6号証2頁10行ないし16行)
2 従来の技術
「従来のこの種の装置としては、1秒間に500コマ以上を送れる高速ビデオを用いたり、ストロボ写真を用いたものが知られている。」(同2頁18行ないし20行)
3 解決しようとする問題点
「従来の高速ビデオでは、1コマに多数の静止画像を記録することはできず、インパクト付近の状態を知りたいときには、コマ送りやサーチを繰返さなければならず、操作が面倒であった。又、高速ビデオでは特殊照明が必要となるばかりか、多くの不必要な画像も記録されていた。さらに、ストロボ写真では、リアルタイムに画像を見ることはできなかった。
そこで、この発明は、動的対象物の必要な瞬間を1コマ内に多数写し、不必要な画像をなくし、その結果として従来の高速ビデオのようにコマ送りやサーチを不要とし、特殊な照明も不要となり、リアルタイムに必要とする画像のみを見ることが可能となった高速度瞬間多重画像記録装置を提供することを目的とする。」(同3頁2行ないし16行)
4 問題点を解決するための手段
「上述の目的を達成するため、この発明は、動的対象物に向けてビデオカメラ・センサー及び発光部を設置し、ビデオカメラにこのカメラの映像信号を受信しモニターに1コマ分の映像を送る外部信号により同期するフレームメモリーを接続し、発光部にビデオカメラの1コマ分に対し複数回閃光するための発光出力を与えるストロボを接続し、センサーにこのセンサーからの検出信号を受信するリターダを接続するとともに、リターダ6にこのリターダ6からの発光信号を受信する前記ストロボを接続し、ストロボにこのストロボからの同期信号を受信し発光部の閃光にリターダ6’を介して同期してビデオカメラを作動させる前記フレームメモリーを接続し、モニターにビデオカメラ1コマ内において発光部の複数の閃光でとらえられた複数の瞬間ポーズを同時に表示するように構成したものである。」(同3頁18行ないし4頁13行、丙第7号証)
5 作用
「この装置で例えばゴルフクラブスイングにおけるインパクトの瞬間を記録する場合、ゴルフクラブが所定の位置まで振りおろされたときにセンサーが感知し、リターダ6を介してストロボに発光信号を送り、発光信号を受信したストロボは発光部に発光出力を与えて発光部を例えば1千分の2秒毎に閃光させる。ストロボがリターダ6から発光信号を受けると発光部に発光出力を与えるのみならず、リターダ6’を介してフレームメモリーに同期信号を発生し、発光部の閃光に同期してビデオカメラが作動する。ビデオカメラとして1秒間に30コマ送る通常市販されているものを使用し、1コマ分作動させた場合、30分の1秒の間に発光部は10回閃光することととなる。すなわち、ビデオカメラ1コマ内に10の瞬間ポーズが写し出され、リアルタイムでモニターに写し出される。」(丙第6号証4頁15行ないし5頁10行、丙第7号証)
6 効果
「以上説明したように、この発明によれば、動的対象物に向けてビデオカメラ、センサー及び発光部を設置し、ビデオカメラにこのカメラの映像信号を受信しモニターに1コマ分の映像を送る外部信号により同期するフレームメモり一を接続し、発光部にビデオカメラの1コマ分に対し複数回閃光するための発光出力を与えるストロボを接続し、センサーにこのセンサーからの検出信号を受信するリターダ6を接続するとともに、リターダ6にこのリターダからの発光信号を受信する前記ストロボを接続し、ストロボにこのストロボからの同期信号を受信し発光部の閃光にリターダ6’を介して同期する前記フレームメモリーを接続し、モニターにビデオカメラ1コマ内において発光部の複数回の閃光で複数回の瞬間ポーズを同時に表示するようになっているので、動的対象物の解析が容易となる。また、従来のストロボ写真撮影と異なり、周囲が明るいままで静止画像をとらえることができる。また、1コマに多数の瞬間ポーズが記録されるために、不必要な画像が始めからなくなり、経済的である。」(丙第6号証10頁17行ないし11頁17行、丙第7号証)
第3 審決を取り消すべき事由について判断する。
1 取消事由1について
(1) まず、本願発明の「ビデオカメラ」について検討する。
本願発明の特許請求の範囲には、「動的対象物に向けてビデオカメラ、センサー及び発光部を設置し、ビデオカメラにこのカメラの映像信号を受信しモニターに1コマ分の映像を送る外部信号により同期するフレームメモリーを接続し、」との記載があることが認められるところ、同記載によれば、本願発明にいうビデオカメラは、「動的対象物に向けて設置」されており、このビデオカメラと接続されたフレームメモリーは、ビデオカメラによる映像信号を受信し、モニターに1コマ分の映像信号を送るという構成を有しているのである。そうすると、本願発明にいう「ビデオカメラ」は、動的対象物を撮影して、その映像信号をフレームメモリーに送信するという技術的意義を有するものであると解することができる。
そして、前記第2の本願明細書の記載を検討しても、上記認定に加えて、本願発明のビデオカメラの意義を限定すべき記載は見当たらない。
(2) 参加人は、本願発明にいう「ビデオカメラ」とは、日本、米国で採用されているNTSC方式、主としてヨーロッパで採用されているPAL方式といった通常市販されている汎用のビデオカメラを意味するのであって、1秒間に500フレーム以上を送ることができる高速ビデオカメラを含むものではない旨主張するので検討する。
前記第2、5(本願明細書の発明の詳細な説明の「作用」の欄)によれば、「発光信号を受信したストロボは発光部に発光出力を与えて発光部を例えば1千分の2秒毎に閃光させる。・・・発光部の閃光に同期してビデオカメラが作動する。ビデオカメラとして1秒間に30コマ送る通常市販されているものを使用し、1コマ分作動させた場合、30分の1秒の間に発光部は10回閃光することととなる。すなわち、ビデオカメラ1コマ内に10の瞬間ポーズが写し出され、リアルタイムでモニターに写し出される。」との記載があることが認められるが、同記載は、例示として「発光部を例えば1千分の2秒毎に閃光させる」場合を挙げ、その後、この例示を基礎として、本願発明の作用を具体的に説明しているにすぎない。
また、実施例中には、「このビデオカメラ2は通常市販されている毎秒30コマのスピードの映像信号を送るものでよく、特殊な高速ビデオカメラは必要ではない。このビデオカメラ2の映像信号を受信しモニター10に1コマ分の映像を送る外部信号によりリターダ6’を介して同期するフレームメモリー5を接続してある。」(5頁16行ないし6頁2行)との記載があることが認められるが、同記載によれば、本願発明では、特殊な高速ビデオカメラ使用の必要性を否定しているにすぎず、必ずしも市販されている汎用のビデオカメラでなければならないとしているものではない。
更に、前記第2、3(本願明細書の発明の詳細な説明の「解決しようとする問題点」の欄)によれば、本願発明は、従来の高速ビデオカメラ等による高速度瞬間多重画像記録装置の欠点を克服したという発明であって、その技術を市販されている汎用のビデオカメラでないものへの適用を排除しているものと解することはできない。
そうすると、参加人の上記主張は、採用することができない。
(3) 次に、引用例1の「レンズと撮像蓄積管」について検討する。
引用例1(丙第2号証)に、撮像蓄積管によってストロボ撮影を行う装置に関し、次の記載が図面と共に示されていることは、参加人の認めるところである。(別紙図面(2)参照)
(イ) 「第1図は本発明の実施例の構成を示すもので、撮像蓄積管1は一端に光電面2を有し、この光電面と対向するようにメッシュ状の信号電極3および蓄積電極4が設けられている。・・・すなわちレンズ7によって被写体8の像9を光電面2上に投映すると共に制御器10によってその端子bを接地し、端子c、dおよびgに例えば350ボルトの電圧を加えると、像9に対応する電子像が蓄積電極4上に投映されて、その表面に電荷像が形成される。この記録操作を行ったのちに、端子bに例えば360ボルトの電圧を加えると、光電面2から放出される光電子が遮断されて上記電荷像が記憶される。この状態で更に蓄積電極4の電圧を6ボルト程度に下げると共に制御器10の端子eに信号を加えて電子銃6から電子線を投射し、かつ端子fから偏向線輪11に水平並びに垂直偏向電流を加えて該電子線で蓄積電極4上を走査すると、前記電荷像に対応する量の電子流が信号電極3に入射する。従ってこの信号電極3からビデオ信号が送出されて、制御器10の端子hから送出される同期信号と共に増幅器12を介してモニタの受像機13に加えられる。なお制御器の端子gを接地して信号電極3の電位を電子銃6の陰極電位と等しくすると同時に端子dに350ボルト程度の電圧を加えて蓄積電極4の電位を上昇させると、電子銃6から投射された電子線が該蓄積電極の絶縁体面に入射して記録された電荷像が消滅する。上述のような撮像装置において、更にキセノンランプのようなストロボ用放電管14を設けてその電源15を制御機10の端子aから送出される信号で制御し、該放電管で被写体8を照明してある。」(1頁右欄22行ないし2頁左欄21行)
(ロ) 「第1図における被写体8が矢印qのように運動している場合に、この披写体がストロボ放電管14によって間歇的に極めて強い光線で照明される。かつ1回の照明時間は例えば1μS程度の極めて短い時間であるから、蓄積電極4には放電管の点灯毎にその瞬間における被写体の静止像が投射されて、記録が行われる。しかも放電管14の消灯期間における大部分は光電面2に360ボルト程度の正電圧が加えられて光電子の放出が阻止されるから、明るい状態で撮影を行った場合にもコントラストの充分大きい鮮明な電荷像が得られる。すなわち蓄積電極4上には複数個の像が重畳して記録される。この記録像が時刻t3以降において読み取られるから、受像機13のスクリーンにはストロボ像が現れるものである。」(2頁左欄43行ないし右欄14行)
上記(イ)の記載によれば、引用例1記載の発明は、レンズによって被写体の像を光電面上に投映させ、像に対応する電子像を蓄積電極上に投映させてその表面に電荷像を形成させるとともに、電子線で蓄積電極上を走査することによって、前記電荷像に対応する量の電子流を信号電極に入射させ、この信号電極からビデオ信号がモニター受像器に送出されるという構成を有するものと認められる。
そうすると、引用例1の撮像蓄積管は、レンズによって形成された被写体の像を光電面上に投映した後、これをビデオ信号に変換して送出するという技術的意義を有するものと認めるのが相当である。
(4) 以上によれば、引用例1のレンズと撮像蓄積管は、本願発明のビデオカメラと共通の技術的意義を有していると認められ、したがって、引用例1のレンズと撮像蓄積管が本願発明のビデオカメラに相当するとした審決の認定に誤りはないというべきである。
2 取消事由2について
(1) 一般に、「コマ」とは、写真用語で「ロール、フィルム、映画の1画面。」(広辞苑第四版)、「映画のフィルムの一画面。また、それを数える単位。」(大辞林)といったことを意味するものと解されているところ、本願発明の特許請求の範囲には、「ビデオカメラにこのカメラの映像信号を受信しモニターに1コマ分の映像を送る」、「発光部にビデオカメラの1コマ分に対し複数回閃光する」、「モニターにビデオカメラ1コマ内において発光部の複数の閃光でとらえられた複数の瞬間ポーズを同時に表示する」という記載があり、同記載によれば、本願発明にいう「1コマ」とは、ビデオカメラの映像の一画面を意味するものと認められる。
(2) 参加人は、本願発明は、一定時間に規則的に数フレーム(30フレーム/秒でも、25フレーム/秒いずれでもよい)を撮影するビデオカメラを使用するものであり、本願発明の「1コマ」とは、このようなビデオカメラにおける1画像を意味するものである旨主張する。
しかし、前記1(1)、(2)で認定判断したとおり、本願発明のビデオカメラは、通常市販されている汎用のビデオカメラに限定されるものではなく、したがって、汎用の方式の30フレーム/秒あるいは25フレーム/秒毎の画像を撮像するものに限定されないから、上記主張は、採用することができない。
(3) 次に、引用例1の撮像蓄積管は、前記1(3)認定のとおり、レンズによって形成された画像をビデオ信号に変換して送出するという技術的意義を有するものであるところ、丙第2号証によれば、引用例1には、「撮像蓄積管は一般に、記録・読取・消去を一連の動作とし、その繰返しによって撮像を行っている。この一連の動作のうちから消去の操作を除去して、間歇的に複数回の記録を行ったのち読み取ることによりストロボ像を観察することができる。・・・本発明は撮像蓄積管を用いて、消去操作を介挿することなく間歇的に記録を行うと同時にストロボ放電管をその記録動作と同期的に点灯させて、被写体を瞬間的に照明することにより、上述のような欠点を除去したものである。」(1欄27行ないし31行、2欄16行ないし21行)、「以上実施例について説明したように本発明は撮像蓄積管を用いて消去操作を介挿することなく、間歇的に記録を行うと共に各記録期間毎にストロボ放電管を点灯させて被写体を照明するものである。」(4欄35行ないし39行)という記載があることが認められ、これらの記載と前記1(3)(イ)の記載を総合すると、引用例1の撮像蓄積管の動作というのは、ストロボ放電管により被写体を間欠的に照明して、照明の瞬間における被写体の静止像をレンズによって複数回にわたって光電面上に投映し、その後、これを1個の電荷の画像として蓄積電極に記録し、その後、読取・消去を行うものと認められる。
そうすると、引用例1の撮像蓄積管は、複数回にわたって光電面上に投映された被写体の像を1画面の電荷の画像とし、この1画像のビデオ信号を次々と出力することを基本的な動作としているものであり、その出力された各画像は、複数の瞬間ポーズが同時に表示されたビデオカメラの映像の一画面であって、本願発明の「1コマ」に相当するものと認めるのが相当である。
(4) 以上によれば、引用例1の撮像蓄積管に記録された画像は、本願発明の「1コマ」と共通の技術的意義を有していると認められ、したがって、本願発明の「1コマ」が引用例1に存在するとした審決の認定に誤りはないというべきである。
3 取消事由3について
(1) まず、本願発明の「動的対象物」について検討する。
本願発明のビデオカメラは、前記1(1)認定のとおり、動的対象物を撮像して、その映像信号をフレームメモリーに送信するという技術的意義を有するものであり、本願発明の特許請求の範囲の記載と併せ考えれば、本願発明にいう「動的対象物」とは、ビデオカメラによって撮像して映像化される対象となる客体であり、また、「動的」というのであるから、動いている状態にあるものを意味するものと認められる。
(2) 参加人は、本願発明の「動的対象物」は、ビデオカメラの1コマ分で多数の静止画像を撮影するためのものであるから、通常のビデオカメラの1コマ分、すなわち、1/30秒あるいは1/25秒以内に必要な瞬間が存在するものが対象となっており、また、位置検出からストロボ発光までのタイミング調整を必要とするものである旨主張するが、本願発明の特許請求の範囲や発明の詳細な説明を精査しても、「動的対象物」がそのような限定された技術的意義のものと解すべき記載も示唆もなく、上記主張は、失当というほかない。
(3) 次に、引用例1の「被写体」について検討する。
引用例1の撮像蓄積管は、前記1(3)認定のとおり、レンズによって形成された被写体の像を光電面上に投映した後、これをビデオ信号に変換して送出するという技術的意義を有するものであるところ、引用例1にいう「被写体」について、引用例1の特許請求の範囲においては、「運動する被写体」という記載があるのみである。また、引用例1の発明の詳細な説明中には、「本発明は撮像蓄積管を用いて消去操作を介挿することなく、間歇的に記録を行うと共に各記録期間毎にストロボ放電管を点灯させて被写体を照明するものである。従って各寄記録期間の中間では・・・光電管の光量は極めて大きく、かつその点灯時間を1μS程度まで短縮し得るから、高速度の運動体のストロボ撮像を容易に行うことができる。また被写体の運動速度が極めて遅い場合においても、記録像が消去されないから、像の移動方向を確実に観察し得る等の種々の効果を有する。」(4欄35行ないし5欄3行)との記載があることが認められ、引用例1記載の発明は、高速度及び低速度の運動体を被写体としその瞬間多重画像を1画像として記録しモニターするものであることを示しているが、被写体の運動について、周期的運動をする回転体以外を排除することを窺わせる記載は存しない。
以上によれば、引用例1にいう「被写体」とは、レンズと撮像蓄積管によって撮像して映像化される対象となる客体であり、また、高速度にせよ低速度にせよ運動している状態にあるものを意味するものと認められる。
(4) 参加人は、引用例1の「運動する被写体」は、「周期的運動をする回転体」しか予定していない旨主張する。
引用例1(丙第2号証)の発明の詳細な説明中には、「更に撮像蓄積管を用いて回転体のような周期的運動をする被写体の撮像を行い、その記録、読取の周期を回転速度に同期させることによって回転体の静止像を観察することができる。」(2欄7行ないし10行)との記載があるが、これは従来の技術の説明の一部であって、引用例1記載の発明にいう「被写体」を説明するものではない。また、引用例1の実施例中に、「また第3図は例えば回転体のような周期的動作を行う被写体の運動周期を測定する場合の動作例で、」(4欄15行ないし17行)との記載があるが、実施例の1つとして挙げられているにすぎないものであって、引用例1記載の発明にいう「被写体」から周期的運動をする回転体以外を排除するというものではない。
(5) そうすると、本願発明の「動的対象物」と引用例1の「被写体」は、共通の技術的意義を有するものであって、引用例1の「被写体」が本願発明の「動的対象物」に相当するとの審決の認定は、相当である。
4 取消事由4について
(1) 乙第1号証(特開昭57-17273号公報)、乙第2号証(特開昭61-23476号公報)、乙第5号証(特公昭46-13775号公報)、乙第6号証(実願昭50-131843号(実開昭52-45327号)のマイクロフィルム)、乙第7号証(実願昭50-99298号(実開昭52-13722号)のマイクロフィルム)及び弁論の全趣旨によれば、撮影時の動的対象物に対して複数回閃光する手段として「発光部に接続されたストロボ」を用いること、一画像記憶手段として「フレームメモリー」を用いること、タイミングを調整する手段として「リターダ」を用いること、撮影された一画面表示手段として「モニター」を用いることは、いずれも、本願発明の特許出願当時、周知の技術であったことが認められる。
(2) 引用発明1の撮像蓄積管は、前記2(3)認定のとおり、ストロボ放電管により被写体を間欠的に照明して、照明の瞬間における被写体の静止像をレンズによって複数回にわたって光電面上に投映し、その後、これを1個の電荷の画像として蓄積電極に記録し、その後、読取・消去を行うものと認められる。
ところで、上記のとおり、一画像記憶手段として「フレームメモリー」を用いることは周知の技術であるから、上記の1個の電荷の画像として蓄積電極に記録する手段としてフレームメモリーを用いることは、当業者が容易に想到しうるものである。
次に、上記のとおり、レンズによって形成された被写体の像を複数回にわたって光電面上に投映してフレームメモリーに記録するためにタイミングを決するに当たって、既に複数回閃光する手段として利用しているストロボからの同期信号を利用するという発想は、ごく当然のことにすぎないものと認められる。
また、ストロボからの同期信号を利用するに当たって、信号のタイミングの調整することが必要となるところ、上記のとおり、「リターダ」は、タイミングを調整する手段として周知の技術であるから、これを用いることもまた、ごく当然の発想にすぎないものというべきである。
更に、記録された画像信号をモニターに表示するために、フレームメモリーから読み出そうとする場合、適宜のタイミングでされなければならないことは当然である。上記の適宜のタイミングを決するに当たって、モニターに1コマ分の映像を送る外部信号を採用することは、当業者が適宜なしうる設計上の事項にすぎないものというべきである。
そして、丙第6号証及び丙第7号証を精査しても、本願明細書において、上記のような技術の組合せによって予期し得ない格別の効果が生じることを窺わせるような記載を見出すことはできないのであって、結局、上記のような周知の技術、当然の発想たる技術、設計上の事項にすぎない技術を組み合せて得られる効果は、これらの技術について当然に予期しうる効果の単なる集合の域をでないものといわざるをえない。
(3) 以上のとおり、一画像記憶手段としてフレームメモリーを用い、ストロボからの同期信号を受信し発光部の閃光にリターダを介して書き込み、モニターに1コマ分の映像を送る外部信号により同期して読み出すように接続するという技術を、引用例1記載の発明に係る、複数回にわたって光電面上に投映し、1個の電荷の画像として蓄積電極に記録する手段に採用することは、いずれも当業者が容易に想到しうることであって、本願発明において相違点Bのような構成にした点に格別の困難性がないとした審快の判断は相当である。
(4) 参加人は、引用例1には「1コマ」ないし「フレーム」という概念が欠如していること、引用例1の「レンズと撮像蓄積管」が本願発明の「ビデオカメラ」に相当するものではないことを前提として、引用例1記載の技術内容から「フレームメモリー」を採用するという発想が生じようがなく、このような発想を予想し得るものではない旨主張するが、その前提が理由のないことは既に認定判断したとおりであって、参加人の上記主張は、採用の限りでない。
5 取消事由5について
(1) 引用例2(丙第3号証)に、次の記載があることは、参加人の認めるところである。
(イ) 「本発明は、移動物体をシャッタにより静止画像とし、蓄積効果脅有する二次元撮像装置で撮像して画質劣化の少ない撮像信号を得るようにした撮像方式に関するものである。」(1頁下右1欄10行ないし13行)
(ロ) 「第2図は本発明の撮像方式のブロック図であり、パターン認識装置の観測部に適用したものであって、同図に於いて、1はテレビカメラ、2は移動物体、3は照明器、4は位置検出回路、5は外部同期信号発生回路、6はシャッタ制御回路、7はシャッタ駆動回路、8は信号選択回路、9はパターン認識回路、11は撮像レンズ、12は撮像管、13はシャッタ機構、14は撮像面、15はパルスキータ、16はその回転シャフト、17はシャッタブレード、a~gは各部の信号である。本発明は、同図に示すように撮像レンズ11、撮像管12及び図示していない水平垂直偏向(偏光とあるは誤記)系とビデオ増幅系等を有する通常のテレビカメラに、シャッタ機構13を付加してシャッタ付のテレビカメラ1を構成し、このテレビカメラ1を移動物体2が所定の撮像視野内に存在しない間はシャッタを閉じた状態で常時走査させておき、移動物体2が撮像視野内に到達した時に、後述する所定のタイミングでシャッタを開いて通常の照明器3による移動物体2の像を撮像管12の撮像面14に瞬間露光させ、この露光直後の1フィールドの信号を選択してこの撮像信号を例えばこの場合に於いてはパターン計測に利用するものである。」(2頁下左欄13行ないし下右欄15行)
上記記載によれば、引用例2のシャッタは、移動物体2が所定の撮像視野内に存在しない間は閉じているが、移動物体2が所定の撮像視野内に到達した時に、「後述する所定のタイミング」でシャッタを開いて撮像の動作を行うものであることが認められる。
(2) そこで、「後述する所定のタイミング」がどのような技術的意義を有するかについて検討する。
引用例2(丙第3号証)の実施例中には、「テレビカメラ1をこのように動作させるために、本実施例に於いては位置検出回路4、外部同期信号発生回路5、シャッタ制御回路6、シャッタ駆動回路7及び信号選択回路8が設けられている。・・・位置検出回路4は、移動物体2がテレビカメラ1の撮像視野内に存在する期間を検出するもの・・・である。そして・・・移動物体2が所定の撮像視野内に存在する期間のみ“0”となる位置検出信号dをシャッタ制御回路6へ出力するものである。」(3頁右上欄10行ないし13行、左下欄3、4行、8行ないし11行)、「またシャッタ制御回路6は、前記位置検出信号dと垂直ブランキング信号cとが入力され、これを論理処理して・・・位置検出信号cが“0”となった直後の垂直ブランキング信号を抽出してこの信号をシャッタ開口信号eとして信号選択回路8に出力し、またこの垂直ブランキング信号期間内に前述したシャッタ動作が完了するようにタイミング調整した・・・シャッタ制御信号fを、シャッタ開口信号eとほぼ等しいタイミングでシャッタ駆動回路7を介してパルスモータ15に出力して、・・・シャッタ動作を行わせるものである。」(左下欄16行ないし右下欄9行)との記載があることが認められる。
上記記載によれば、移動物体2が所定の撮像視野内に到達すると、位置検出信号dが“0”となって、これをシャッタ制御回路6へ出力し、シャッタ制御回路6は、位置検出信号cが“0”となった直後の垂直ブランキング信号を抽出してこの信号をシャッタ開口信号eとして信号選択回路8に出力し、また、垂直ブランキング信号期間内にシャッタ動作が完了するようにタイミング調整したシャッタ制御信号fを、シャッタ開口信号eとほぼ等しいタイミングでシャッタ駆動回路7を介してパルスモータ15に出力するというものであって、「後述する所定のタイミング」とは、移動物体2がテレビカメラ1の撮像視野内に存在することを示す位置検出信号と、この信号を受けて抽出される垂直ブランキング信号との論理的な組合せによって決せられるものと認められる。
上記認定のとおり、引用例2記載の発明において、移動物体がテレビカメラの撮像視野内に存在することを示す位置検出信号を用いて移動物体の撮像を行う技術が開示されているのであれば、この技術のうち、テレビカメラの撮像視野内に移動物体が到達した際の位置検出信号を移動物体の撮影のタイミング決定に利用することもまた開示されているものというべきである。
したがって、相違点Aについて、移動物体が撮影領域に達したことを検知する「センサー」を備えておき、その検知信号を受けて所望のタイミングで撮影する技術的思想は引用例2に示されていて公知であるとの審決の認定は、相当である。
(3) 次に、位置検知信号を受けた後、ストロボの発光、すなわち、撮影開始までの時間を調整することも、当業者が必要に応じて当然に採用しうる事項と認められ、前記4(1)のとおり、リターダはタイミングを調整する手段として周知の技術であるから、テレビカメラの撮像視野内に移動物体が到達した際の位置検出信号を移動物体の撮影のタイミング決定に利用するという引用例2に開示されている技術を、前記2(3)認定のとおりの、ストロボ放電管により被写体を間欠的に照明して、照明の瞬間における被写体の静止像をレンズによって複数回にわたって光電面上に投映し、その後、これを1個の電荷の画像として蓄電電極に記録し、その後、読取・消去を行うという引用発明1の技術に適用しようとする場合において、ストロボ放電管による被写体の照明を、上記位置検出信号を用いて行うこと、及び、位置検知信号をリターダに送信して、移動物体を検出してから所望のタイミングで撮像することは、当業者が容易になしうるものというべきである。
そして、丙第6号証及び丙第7号証を精査しても、本願明細書において、上記のような技術の組合せによって予期し得ない格別の効果が生じることを窺わせるような記載を見出すことはできないのであって、結局、上記のような周知の技術を組み合せて得られる効果は、これらの技術について当然に予期しうる効果の単なる集合の域をでないものといわざるをえない。
したがって、本願発明は、引用例1、2記載の発明から当業者が容易に予測することができる程度のものとした審決の判断は、相当である。
(4) 参加人は、引用例2における所定のタイミングとは、位置検出信号dが“0”となった直後の垂直ブランキング信号期間内にシャッタ動作が完了するように、シャッタ機構のシャッタ時間を調整することであり、シャッタ動作を行うタイミング(位置検出してからシャッタ動作を行うまでの所要時間)を調整するものではない旨主張する。
しかしながら、前記(2)認定のとおり、引用例2における「所定のタイミング」とは、移動物体2がテレビカメラ1の撮像視野内に存在することを示す位置検出信号と、この信号を受けて抽出される垂直ブランキング信号との論理的な組合せによって決せられるものであるところ、本件では、この技術のうち、テレビカメラの撮像視野内に移動物体が到達した際の位置検出信号を移動物体の撮影のタイミング決定に利用することが開示されているのであって、参加人が主張するように、引用例2における所定のタイミングとしてシャッタ動作を行うタイミングを調整する技術が含まれているとしても、前記認定判断を左右するものではない。
また、参加人は、引用例2における位置検出回路は、テレビカメラの撮像領域内の移動物体が、特定の、すなわち実施例では、撮像領域の中央領域に移動物体が存在する期間を検出するものであって、撮像領域外の移動物体を検出するものではなく、撮像領域内の移動物体の検出を任意に設定できるものでもない旨主張する。
しかしながら、本願発明は、特許請求の範囲の記載から明らかなとおり、撮像領域外の移動物体を検出することをその構成要件としているものではないから、引用例2において、撮像領域外の移動物体を検出するものではなく、撮像領域内の移動物体の検出を任意に設定できるものでもないかどうかを問題とする余地はないのであって、参加人の上記主張は失当である。
また、参加人は、引用例2の位置検出回路を引用例1の装置に適用しても、位置検出から撮像及びストロボ放電管の点灯開始までのタイミングを調整する機能はないから、撮像蓄積管の記録状態は、ゴルフクラブのスイング中撮像視野内にゴルフクラブが存在する間であり、撮像視野内にゴルフクラブが入ってきてから検出し、撮影したのでは、5万分の1秒というインパクトの瞬間を正確にとらえることはできない旨主張する。
しかしながら、本願発明は、特許請求の範囲の記載から明らかなとおり、位置検出から撮像及びストロボ放電管の点灯開始までのタイミングを調整することをその構成要件としているものではないのであって、位置検出から撮像及びストロボ放電管の点灯開始までのタイミングを調整することは、個別的に諸々の具体的な要素を加味して決められる設計事項にすぎず、参加人の上記主張は、その前提において失当というほかない。
更に、参加人は、引用例1の「運動する被写体」は、前記のとおり、「周期的運動をする回転体」しか予定しておらず、センサーやリターダを必要としないのであり、このようにセンサーやリターダを必要としない技術的思想に対して、引用例2の公知技術でセンサーを使用しているからといって、このセンサーを、センサーを必要としない技術的思想に付加するという考えは、当業者であれば初めから思いつきもしないものである旨主張する。
しかしながら、引用例1の「被写体」が周期的運動をする回転体に限定されるものでないことは、前記3(4)認定のとおりであるから、参加人の上記主張は、その前提を欠き、採用の限りでない。
第4 よって、審決には参加人主張の違法はなく、その取消しを求める参加人の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成10年10月29日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)
理由
Ⅰ [手続きの経緯、本願発明の認定]
本願は、昭和61年2月21日(特願昭60-145475号に基づく国内優先権主張昭和60年7月2日)の出願であって、その発明は、平成5年4月23日付け手続補正書で補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の第1項に記載されたとおりの、
「動的対象物に向けてビデオカメラ、センサー及び発光部を設置し、
ビデオカメラにこのカメラの映像信号を受信しモニターに1コマ分の映像を送る外部信号により同期するフレームメモリーを接続し、
発光部にビデオカメラの1コマ分に対し複数回閃光するための発光出力を与えるストロボを接続し、
センサーにこのセンサーからの検出信号を受信するリターダ(6)を接続するとともに、リターダ(6)にこのリターダ(6)からの発光信号を受信する前記ストロボを接続し、
ストロボにこのストロボからの同期信号を受信し発光部の閃光にリターダ(6’)を介して同期する前記フレームメモリーを接続し、
モニターにビデオカメラ1コマ内において発光部の複数の閃光でとらえられた複数の瞬間ポーズを同時に表示することを特徴とする高速度瞬間多重画像記録装置。」
であるものと認められる。
Ⅱ [引用例]
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特公昭51-11893号公報(以下これを引用例1という)には撮像蓄積管によってストロボ撮影を行う装置に関し、
「第1図は本発明の実施例の構成を示すもので、撮像蓄積管1は一端に光電面2を有し、この光電面と対向するようにメッシュ状の信号電極3および蓄積電極4が設けられている。……すなわちレンズ7によって被写体8の像9を光電面2上に投映すると共に制御器10によってその端子bを接地し、端子c、dおよびgに例えば350ボルトの電圧を加えると、像9に対応する電子像が蓄積電極4上に投映されて、その表面に電荷像が形成される。この記録操作を行ったのちに、端子bに例えば360ボルトの電圧を加えると、光電面2から放出される光電子が遮断されて上記電荷像が記憶される。この状態で更に蓄積電極4の電圧を6ボルト程度に下げると共に制御器10の端子eに信号を加えて電子銃6から電子線を投射し、かつ端子fから偏向線輪11に水平並びに垂直偏向電流を加えて該電子線で蓄積電極4上を走査すると、前記電荷像に対応する量の電子流が信号電極3に入射する。従ってこの信号電極3からビデオ信号が送出されて、制御器10の端子hから送出される同期信号と共に増幅器12を介してモニタの受像機13に加えられる。なお制御器の端子gを接地して信号電極3の電位を電子銃6の陰極電位と等しくすると同時に端子dに350ボルト程度の電圧を加えて蓄積電極4の電位を上昇させると、電子銃6から投射された電子線が該蓄積電極の絶縁体面に入射して記録された電荷像が消滅する。上述のような撮像装置において、更にキセノンランプのようなストロボ用放電管14を設けてその電源15を制御機10の端子aから送出される信号で制御し、該放電管で被写体8を照明してある。」(公報第1頁右欄第22行~第2頁左欄第21行)
「第1図における被写体8が矢印qのように運動している場合に、この被写体がストロボ放電管14によって間歇的に極めて強い光線で照明される。かつ1回の照明時間は例えば1μS程度の極めて短い時間であるから、蓄積電極4には放電管の点灯毎にその瞬間における被写体の静止像が投射されて、記録が行われる。しかも放電管14の消灯期間における大部分は光電面2に360ボルト程度の正電圧が加えられて光電子の放出が阻止されるから、明るい状態で撮影を行った場合にもコントラストの充分大きい鮮明な電荷像が得られる。すなわち蓄積電極4上には複数個の像が重畳して記録される。この記録像が時刻t3以降において読み取られるから、受像機13のスクリーンにはストロボ像が現れるものである。」(公報第2頁左欄第43行~右欄第14行)なる記載が図面と共に示されている。
また、同じく引用された特開昭54-149419号公報(以下これを引用例2という)には
「本発明は、移動物体をシャッタにより静止画像とし、蓄積効果を有する二次元撮像装置で撮像して画質劣化の少ない撮像信号を得るようにした撮像方式に関するものである。」(公報第1頁下右欄第10行~第13行)
「第2図は本発明の撮像方式のブロック図であり、パターン認識装置の観測部に適用したものであって、同図に於いて、1はテレビカメラ、2は移動物体、3は照明器、4は位置検出回路、5は外部同期信号発生回路、6はシャッタ制御回路、7はシャッタ駆動回路、8は信号選択回路、9はパターン認識回路、11は撮像レンズ、12は撮像管、13はシャッタ機構、14は撮像面、15はパルスモータ、16はその回転シャフト、17はシャッタブレード、a~gは各部の信号である。
本発明は、同図に示すように撮像レンズ11、撮像管12及び図示していない水平垂直偏向(偏光とあるは誤記)系とビデオ増幅系等を有する通常のテレビカメラに、シャッタ機構13を付加してシャッタ付のテレビカメラ1を構成し、このテレビカメラ1を移動物体2が所定の撮像視野内に存在しない間はシャッタを閉じた状態で常時走査させておき、移動物体2が撮像視野内に到達した時に、後述する所定のタイミングでシャッタを開いて通常の照明器3による移動物体2の像を撮像管12の撮像面14に瞬間露光させ、この露光直後の1フィールドの信号を選択してこの撮像信号を例えばこの場合に於いてはパターン計測に利用するものである。」(公報第2頁下左欄第13行~下右欄第15行)なる記載が図面と共に示されている。
Ⅲ [対比]
本願の発明と引用例1に記載されたものとを対比すると、引用例1の「レンズと撮像蓄積管」「発光部」「被写体」は、本願発明の「ビデオカメラ」「ストロボ放電管」「動的対象物」にそれぞれ相当し、引用例1の「蓄積電極」と本願発明の「フレームメモリ」は共に1画像分の情報を記憶するものであるから、両者は
「動的対象物に向けてビデオカメラ及び発光部を設置し、
このカメラの映像信号を同期信号によって読み出されてモニターに1コマ分の映像を送る画像記憶手段を備え、
発光部にビデオカメラの1コマ分に対し複数回閃光するための発光出力を与えるストロボを接続し、
モニターにビデオカメラ1コマ内において発光部の複数の閃光でとらえられた複数の瞬間ポーズを同時に表示することを特徴とする高速度瞬間多重画像記録装置。」である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。
(相違点A)
本願発明は、移動物体が撮影領域に達したことを検知する「センサー」を有し、「センサーにこのセンサーからの検出信号を受信するリターダを接続するとともに、リターダにこのリターダからの発光信号を受信する前記ストロボを接続」する構成をとるものであるのに対し、引用例1のものはそのような構成を有していない点。
(相違点B)
本願発明が一画像記憶手段として「フレームメモリ」を用い、そのフレームメモリは「ストロボからの同期信号を受信し発光部の閃光にリターダを介して同期」されて書き込まれ、「モニターに1コマ分の映像を送る外部信号により同期」して読み出されるように接続されたものであるのに対し、引用例1の記憶手段は「撮像蓄積管の蓄積電極」であって、「蓄積期間内の複数のストロボ撮影像が蓄積電極に記憶され」、「モニターに1コマ分の映像を送る内部の走査信号」により読み出される構成となっている点。
Ⅳ [当審の判断]
まず、相違点Bについて検討するに、一画像記憶手段として「フレームメモリ」を用いることは周知慣用されている技術であって、ストロボ多重露光撮影にこれを採用すれば、複数回のストロボ撮影終了のタイミングを待ってメモリに書き込み、モニターに1コマ分の映像を送る適宜の同期信号により読み出すことは当然であるから、本願発明において「ストロボからの同期信号を受信し発光部の閃光にリターダを介して同期」されて書き込まれ、「モニターに1コマ分の映像を送る外部信号により同期」して読み出されるよう構成した点に格別の困難性を認めることはできない。
また、相違点Aであるが、移動物体が撮影領域に達したことを検知する「センサー」を備えておき、その検知信号を受けて所望のタイミングで撮影せんとする技術的思想は引用例2に示されているように公知である。この引用例2の位置検出回路は移動物体の所定位置通過を検知するとその信号に基づき撮影視野内に存在する期間を位置検出信号として出力するものであるのに対し、本願発明はセンサからの検出信号を受けてストロボ駆動手段に発光信号を送るリターダを備えたものであるが、上記の技術的思想を引用例1のような多重露光のストロボ撮影に適用すれば、移動物体の所定位置通過検知信号に基づきその物体が撮影視野内に存在する期間中に適宜のストロボ発光するように制御することは当然であるから、本願発明において、「センサーにこのセンサーからの検出信号を受信するリターダを接続するとともに、リターダにこのリターダからの発光信号を受信するストロボを接続」する構成をとることは当業者が容易に想到し得たところである。
そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1、2に記載された発明から当業者であれば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとは言えない。
Ⅴ [むすび]
したがって、本願の発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
別紙図面(1)
図面の簡単な説明
第1図は本装置の好適な実施例を示す図、第2図はテニスボールを撮影するための装置の概略図、第3図は第2図のセンサーを示す斜視図である。
1……動的対象物、
2……ビデオカメラ、
3……センサー、
4……発光部、
5……フレームメモリー、
6・6’……リターダ、
7……ストロボ、
10……モニター。
<省略>
別紙図面(2)
<省略>
撮像蓄積管1 光電面2 信号電極3 蓄積電極4 光電子加速電極5 電子銃6 レンズ7被写体8 像9 光電面2 制御器10 偏向線輪11 増幅器12 モニタの受像機13ストロボ用放電管14 電源15